『あたいの夏休み/噂』 1986年6月5日発売 2008年8月2日発行
『あたいの夏休み』
短パンをはいた付け焼き刃レディたちが
腕を組んでチンピラにぶらさがって歩く
ここは別荘地 盛り場じゃないのよと
レースのカーテンの陰 ささやく声
お金貯めて3日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば 数珠つなぎ
さめたスープ 放り投げるように 飲まされて
二段ベッドでも あたいの夏休み
サマーヴァケイション あたいのために
サマーヴァケイション 夏ひるがえれ
新聞に載るほど悪いこともなく
賞状をもらうほど えらいこともなく
そして ゆっくりと一年は過ぎてゆく
やっと3日もらえるのが 夏休み
貴賓室のドアは金文字の VIP
のぞきこんでつまみ出されてる夏休み
あたいだって町じゃ 捨てたもんじゃないのよと
慣れた酒を飲んで 酔う 十把ひとからげ
サマーヴァケイション あたいのために
サマーヴァケイション 夏ひるがえれ
だけど あたいちょっと この夏は 違うのよね
ゆうべ買った 土産物屋のコースター
安物だけど 自分用じゃないもんね
ちょっと わけありで 今年の夏休み
悲しいのは ドレスが古くなること
悲しいのは カレーばかり続くこと
だけど もっと悲しいことは ひとり泣き
だから あたいきっと勝ってる夏休み
サマーヴァケイション あたいのために
サマーヴァケイション 夏 ひるがえれ
サマーヴァケイション あたいのために
サマーヴァケイション 夏ひるがえれ
JASRACコード 002-9774-7
学生は夏休みに入り、社会人ももうすぐ盆休みです。
ちょうど時節にぴったりの曲にめぐり合いました。
中島みゆきは一人称を歌に合わせて変えています。
一般的な「私」「わたし」も使いますが、
代表格と言えるのは「あたし」です。
また、『僕は青い鳥』に代表される「僕」という中性的な一人称も使います。
この歌では「あたい」という一人称を使っています。
中島みゆきの歌の中で「あたい」という一人称が使われるのはこの歌だけです。
中島みゆきはこの歌でイメージしているのは庶民的な女性です。
中島みゆきは彼女らに暖かいエールを送っています。
彼女たちのやる瀬ない思いが的確に表現されています。
中島みゆきはそんな彼女たちを優しい目で見つめています。
「Summer Vacation あたいのために Summer Vacation 夏翻れ」
というサビの部分に、起こりえないであろうが一縷の願望に身を託して
現実のわびしい姿を忘れようとする切ない望みが歌われています。
中島みゆきの歌詞の特徴として、弱者の視点に立って書かれています。
それが社会の中でもがき苦しみ悩んでいる多くのリスナーに歓迎されるのでしょう。
社会はピラミッド構造になっていて強者は一部で大部分は弱者が占めています。
当時、中島みゆきは既にスターでしたが、
弱者の視点を忘れない点にこそ中島みゆきの謙虚さ、筋の通った堅い思考回路があると思います。
それは現在においても変わりありません。
メロディ面から見ると、「ご乱心の時代」の作品だけに
デジタル音を前面に打ち出しシンセサイザーを駆使したアップテンポなロックになっています。
イントロから続くシンセサイザーの旋律が私の耳には心地よいです。
私は基本的にアナログ志向ですが、こと中島みゆきの歌に関しては「ご乱心の時代」に作られた曲に好きな歌が多いです。
なおこの曲はアルバム『36.5℃』にも収録されています。『36.5℃』は私の一番好きなアルバムのひとつです。
シングル版が先行発売されましたがアルバム版もほとんど変わりありません。
『噂』
答えづらいことを無理に訊くから 嘘をついてしまう ひねくれちまう
ほら すれ違いざま飛礫(つぶて)のように 堅気女たちの ひそひそ話
悪いことばかり信じるのね 観たがるのは告白
あなただけは 世界じゅうで 刑事じゃないといってよ
外は5月の雨 噂の季節 枝のように少し あなたが揺れる
噂なんて きっかけにすぎない
どこかで この日を待ち望んでたあなたを知ってる
私たちの歌を酒場は歌う 気の毒な男と 猫かぶり女
目撃者は増える 1時間ごと あなたは気にしだす半時間ごと
何もなかったと言えば疑う心に 火を注ぐ
何かあったとからかえば ほらやっぱりとうなずくの
外は5月の雨 どこへ行こうか 少し疑ってる男を捨てて
噂なんて きっかけにすぎない
どこかで この日を待ち望んでたあなたを知ってる
外は5月の雨 どこへ行こうか 疑いたがってる男を捨てて
JASRACコード 010-8404-6
『あたいの夏休み』と打って変わってスローなワルツです。
歌詞は今までの中島みゆきにはない男と女の微妙な駆け引きになっています。
男は女を疑い始めています。
それは何処ともなく男の耳に入ってきた「噂」によるものです。
男は女を問い詰めます。
女は否定しても男の疑いに火を注ぎ、からかって肯定しても男は真に受けてしまうと逡巡しています。
そこで、冒頭の歌詞が生きてきます。
「答えづらいことを 無理に訊くから 噂をついてしまう ひねくれちまう」
ここで中島みゆきは「噂」を「うそ」と歌っています。
私たちの日常でも確かに噂はほとんどが「うそ」です。
そこを中島みゆきは「噂」と歌詞には書いて「うそ」と歌ったのでしょう。
「噂」に関して中島みゆきは別の箇所で鋭い指摘をしています。
「ほら すれ違いざま飛礫(つぶて)のように 堅気女たちのひそひそ話」
中島みゆきも女性でありながら同性の欠点をよく判っています。
セカンドアルバム『みんな去ってしまった』に収録されている『彼女の生き方』の中にも同様な歌詞があります。
「おかみさんよ あんたらの方が あこぎな真似をしてるじゃないか」
しかし、全ての女性にそういう悪癖(?)があるわけではないことも承知しています。
この歌ではひそひそ話をするのは「堅気女」、
『彼女の生き方』の中であこぎな真似をするのは「おかみさんたち」と限定しています。
これは、その範疇から外れる女性への救いの手を差し延べているともいえます。
リスナーに「あなたはこんなことしないよね。あなたのことじゃないのよ」と
歌っています。
ここにも『あたいの夏休み』で述べた「弱者への視点」があります。
この曲のオリコン最高位は14位です。