━リード━
中島みゆきは、国技館のコンサート「歌暦」Page’85の四日間を、
春、夏、秋、冬と位置づけていた。
でも、それは消して完結ではなかった。
今、彼女の意思は、四季のサイクルを越えて
新しい季節にたどりつこうとしている。
だから、
全国30ヶ所のコンサート・ツアーを春のツアーと呼びたくはない。
目の前にあるのは”五番目の季節”なのだから。
2月18日、東京が雪に包まれた。もちろん、雪国の人から見たら、なんてことない雪。けれど、窓の外の白い世界をながめながら、頭の中がスコンと抜けていくような気持ち良さを感じてるのが、僕は大好きだ。見慣れた風景が一変して、人々が不思議な世界に迷い込んだように、とまどいながら歩いている街。そんな人々のひとりになって、雪の上に自分の足跡をつけていくのも好きだ。こんな日は、なにもかも新鮮になったような気がする。
翌日、僕は、黒いゴム長靴をはいて、雪の残る街に出かけていった。東京の四季の中でも、特別な気分の日にふさわしい話ができたらいいな、と思いながら。
中島みゆきは、パールホワイトのブーツをはいてやって来た。
━”「歌暦」Page’85”、やってみてどうでした?かなり疲れました?
みゆき 疲れはしなかったね。ただ、長いツアーと違ってね、4日間しかないもんだから、かなり急激に気持ちをハイなところまで持っていったわけね。だから、終わってもハイのまんまで。正月になっても、まだコンサートしてましたけどね、頭の中が。(笑)
━いつ頃まで、その後遺症、続きました?
みゆき 正月あけて、しばらく続いてましたねぇ。成人の日あたりまで、アハハ、ありましたよ。
━いつもね、みゆきさんのコンサート見せていただくとそうなんだけれど、やっぱりあのコンサートも、いっぱいアレアレなんです。
みゆき アレアレですか。ヘッヘッヘッ。あたし、ホントに気が多いから。
━とくにね、今までのコンサートでやってないことをずいぶんやってらした。
みゆき たぶん、普通のプロの方だったら、もうちょっとセレクトして、どれかひとつをやるってことが多かったのかもしれないけど、あたし気が多い割には気が短くて、すぐなんでもやってみたがるから。そうすっと、ああいうふうになるの。ウフフ。
━でも、みゆきさんは基本的に3年計画でやってる方でしょ。その計画性と気が多い部分は、どうつながってるんですか?
みゆき その3年先の予定を立ててるうちにね、その3年の間に、またやりたいことがくっついてきちゃうわけ、いろいろ。
━それを全部プラス・アルファでやるの?
みゆき うん。どんどん増えてっちゃうわけ。
━気が多いというのは、気が変わるっていうのとは違うんですか?
みゆき 変わるんでもないのね。前やってたことも好きなの。で、やりたいことはいっぱいあるのね。で、節操というものがないから、おのれを知らないというかさ。
だから、ロックっぽいとか言うんだったら、じゃあ中島は今度からロックに変わるのか、今までのものは捨てるか、っていうんではないわけ。
━うん、そういうふうには思わない。
みゆき ね、ロックやったっていいじゃない。でもって、ジャズっぽいのやったっていいじゃない、って。ロックとジャズ、一緒に並べちゃったりすると、見るほうはドンパチになっちゃうんだけど、こっちはさほどたいしたこととは思ってなかったりするわけ(笑)
━節操がないとは思わないけど、どんどんエスカレートしていくところはありますね。
みゆき とくに、”歌暦”はね、楽しんでもらえたらいいと思うんだ。で、楽しんでもらえる中に、なにかひとつふたつ、こだわったところを、家に帰って思い出してもらえれば、それでいいやっていうかね。あまり理屈っぽくは作ってなかったからね。
━いつもは理屈っぽい。
みゆき もちろんです。ウフフ。
「歌暦」Page’85のステージに関しては、本誌3月号にとてもいいレポートが残されている。僕はこのレポートには異論はない。ただ、僕が違う間奏を持った部分をあげるとしたら、このコンサートで”『Miss M.』”からの曲が、ほんの数曲しか(4日目はたしか3曲のみ)うたわれなかった━P23、という部分。僕は、逆に『Miss M.』の曲が、3曲も歌われたことに驚いたのだ。去年のツアー”のぅさんきゅう”では『御色なおし』から5曲をメドレーにして歌ったり、『はじめまして』の中の数曲をアルバムの構成に近い形で歌ったりしていたけれど、中島みゆきのコンサートでは、そのほうが例外的なことだと思っていた。僕が見たそれ以前のコンサートでは、彼女はその時の最新アルバムから、1曲しか歌わないことも珍しくなかったから。僕は、そうした新曲(?)のステージでの取り上げ方に、彼女のレコードとステージの関係の作り方があるだろうと思っていた。
もうひとつ、僕が中島みゆきに確認したかったのは、”のぅさんきゅう”の前におこなわれた東京、大阪のみのツアー”月光の宴”と今回の”歌暦”との関係だ。それは、もちろん、本誌が出る頃には、すでに中盤にさしかかっているツアー”五番目の季節”と”歌暦”との関係が気になっているから。
みゆき そうだね。ただ、おととしかな、やった時のと、今回の国技館と違ったのは、うーん、前のやつは、どっちかっていうと、それまでの締めくくりっぽくなっちゃったんですよね。今からしてみると、ちょっと浅かったかなって思うところがあるんです。
国技館の場合は、締めくくり、ありがとうございました、10年さようなら、じゃなくて、いわば旗上げにしようっていうかな。うん、花火は派手でもいいんじゃないかってことですよね。
━うん。
みゆき そういうもんでいいと思ってましたしね。まあ、花火は派手だけど、こっちから先は花火じゃないわけでありましてね。
━うん、そうですね。
みゆき そういう点じゃ、このふたつの秋のコンサートはタイプが違うと思うね。”歌暦”のほうはね、そういうふうに続けていきたいと思ってますからね。
━あ、それで”Page '85”がついてた。
みゆき 開会セレモニーみたいな、アハハ。
━ということは、今年もやる?
みゆき はい、もう押さえちゃった。
━同じ場所?
みゆき うん。
━ホント?書いていい?
みゆき こないだラジオで言っちゃったもん、あたし、自分で勝手にさ、”今年も国技館やります。よろしくっ”かなんか言ったら、向こうでマネージャーがサーって青くなって、ホール取ってないぞ、オイ、みたいな。アハハ。
中島みゆきのコンサートは、単なる新曲プロモーション・コンサートじゃない。彼女は自分がそれまでにレコードで発表した曲たち、そして時には未発表の曲も含めて、また別の世界を提示してきた。それは、ひとつひとつの曲をアルバムから解放することであったり、また別の色彩を与えたりすること。その時々において、中島みゆきの世界を、聞き手と共にたしかめあい、新しい命を吹き込む場でもあるんだと思う。
だから、『Miss M.』というアルバム、”歌暦”そして”五番目の季節”というコンサートが作り出そうとしているひとつの流れを、僕は見とどけていたいと思っている。たぶん、それは、僕が捜し続けてきたなにものか、につながっているハズだと思うから。
それにしても、”歌暦”春、夏、秋、冬の4日間の次のツアーが”五番目の季節”なんてね。
━今回、コンサートの中味を作るのに、時間はかかっていますか?
みゆき うん。今回はとくにものすごい時間かけていますよ。というのは、あたしも含めて、メンバーがその人間性を問われるような作りになってますんでね。
━えっ?
みゆき 曲順に関するディスカッションで2ヶ月もかかったりね。それは、どう並べれば良く聞こえるか、ということでとりかかるわけだけど。じゃあ、それを弾くほうが、どういうつもりでその曲に入れるかってことをね、ミュージシャンともども考えると、理解できない、っていう人が出てくるわけです。で、気持ちの流れとして、どういうものなのかを納得できないで、義務で弾くのなら、やめてちょうだいということになるわけでね。
━単なるお仕事としてはできない。
みゆき で、それぞれの自分の中の四季、それは、20歳そこそこのメンバーもいるし、もう40歳を過ぎたようなメンバーもいるんですよ。その、それぞれの、今まで生きてきた中を四季と考えてもらうなら、今はまだ、4つのシーズン過ぎてないかもしれないし、過ぎたと思ってるかもしれない。じゃあ、五番目は何なのか、出してちょうだい、っていう。
そうすると、それぞれの中で、いきなりこの曲に入っていく時に、自分の今まで生きてきた中に、このパターンはない、とか、これは理解できない、っていうのが出てくる分けですよ。
だから、まあ義務的にかっこ良く作ることだけではないと思いますけどね。みっともなくてもいいから、裸で弾いてもらおうっていう感じになると思いますね。そういうディスカッションは長いです、今回はとくに。
━でも、今まででも、そういうことはやってきてるんでしょ?
みゆき 今まででもやってきてるんだけど、ある程度の仮託ができる部分もあったんですよね。ひとつの、ある女の物語であったり、ある中島みゆきのストーリーであったりしたんだけど、今回っていうのは、ステージにあがってる人間やスタッフの、それぞれの四季っていうのにかかわってくる。これは、中島みゆきさんの四季だけじゃなくて”あなたの五番目の四季”ってことになってくると思うのね。
だから、パンフレットの目次のところに、春、夏、秋、冬tって書いてあるんですけど、五番目のところに枠だけ残してあるんです。見る人も、五番目の季節を自分で書いてくださいっていう。
五番目はこうですって、あたしは答は出さないですよ。きっと、あたしは演説家とか解説家じゃないから。で、その五番目が、自分はこうだっていう答が千通り出たとしても、どれも間違いではないだろうなと受け取る準備は、こっちにあるつもりですから。
━たぶん、ステージの上の答も一通りじゃないでしょうね。
みゆき うん。問題は、四から五に行く意志があるかどうかってことだね。五がなんでもかまわないんですよ。四から五に行く意志の有りようは、なんでもこっちは受けとめようということですね。
━うん、そこのとこだけですね。
みゆき 五に行く気のない人は、博物館で写真見ててください、と。そういうことですね。五でずっこけてもいいと思ってますからね。四で博物館よりはね。五が出来たら、六、七、八、九、十だしね。
━だって、四で博物館に行ったら、ちょっとさみしいものね。
みゆき ねえ。まとまりはいいですけどね。フフフ、ほんとに。
━でも、自分の人間性が問われる形っていうのは、またね、それが中島みゆきなんだ、というふうに聞かれちゃう危険性もあるんじゃないですか?
みゆき そういう、演説ふうに聞こえる人もいるかもね。でも、これが中島みゆきなんだというより、それを探さにゃ、まあ、アホになってしまうってことだけでさ、あたしにも、まだ確たるものはないんですよね、きっと。
━ああ。
みゆき そりゃ、そう簡単に見えないんじゃないですか、見に来る人も。(笑)
━たぶん、また見てから悩むんだ。
みゆき あたしも悩んでます。
━アハハ。
みゆき お互いに悩んでるんです。あたしゃホテルに帰って悩んでます。ハハハ。
━御本人も悩むんですか?
みゆき 悩んでますとも、ハハハッ。
中島みゆきの笑い声に、つられて笑いながら、心のどこかで考えていた。はたして、僕はパンフレットの枠の中に、何と書くだろう。
春→夏→秋→冬→□
たしかに僕は、あの雪を見た時に、それを感じていたハズだ、とも思う。いや、それをはっきり意識したのは、ずっとずっと前だ。そして、僕が五番目の季節を探していたことを思い出させてくれたのが「はじめまして」という曲だった。
だから、僕は『Miss.M』に今も向き合っている。そして、またわかりきったことをつぶやいてしまう。
「エーイ、他人事じゃないぜ!」
(完)