異色対談/中島みゆきvs勝新太郎
MORE 1982年10月号
ーリードー
彼女に彼が、慈父のような目を向けた。いまや不動の人気のシンガー・ソングライター中島みゆきに、個性的なシンガーとしてもその非凡な天性を発揮している勝新太朗。ふたりは、実はモアのこの対談が初対面。異才同士が触れあって、語りかける。
勝 結婚はしてないんでしょ?
中島 はい。
勝 1回もしてないの?
中島 はあ、どうしたことか、ご縁がありませんで。
勝 してみたいとも思わないわけ?
中島 あんまり熱望はしてないですね。
勝 あんまり必要としないわけだ、男の人を。
中島 いやあー、いるのも悪くないかなという程度で。
勝 想像の中でたくさんいるんだろう。想像の中では何人もたくさん、いろんなタイプの男の人がいるわけだ。
中島 はあ。私、かなり惚れっぽいんです。
勝 オレもよく想像で、親父を殺したり、玉緒(妻)を殺したり、娘たちを殺したりして。
中島 へえー・・・。小さいときから、”お嫁さんになりたいわ”っていう夢は持たなかったな。ま、そこらへんにいるー家の中に、もうひとりくらいいるのも、悪くないかもしれないけれども、ウー、またうっとうしいと思ったときはどうすりゃいいんだろうと思うと、メンドウになる。
勝 ラッシュしちゃうわけだ、先に自分が想像しているうちに、だいたいそれをつないでみると、ああ、いつかこういう場面が出てくるなあと。
中島 取り越し苦労しちゃったりして。
勝 そういう場面が出てきたときに、そんならやめておいたほうがいい、と違う想像をしちゃう。
中島 そうですね。ならば、やめといたほうが・・・そこへいきますね。
勝 だけど、”そんなら自分でやめといたほうがいい”という、ペーソスな部分を、ずいぶん歌にしているよね。
中島 そこばっかりみたい。
勝 ね、歌詞なんか見ると。
中島 逆にちょっと不安というか、不埒な不安なんですけれどもね・・・もしもハッピーエンドとかいって、ある日、突然、私が”めっけたわー”って、つかまえちゃったという雰囲気になったときに、どういう歌になるものかと、自分で不安ですよね。
勝 よくテレビで、奥さんが家出して、旦那さんが子供を連れて「母ちゃん帰ってきてくれ、この子のためにも」と言うでしょ。その子も「お母ちゃん帰ってきてぇ」なんて言うと、その奥さんが帰ってきて、こういう部屋で話し合いがついて、やっとハッピーエンドになりました・・・みたいなとこで。あれはハッピーエンドじゃないもんね。普通、世界で言っているハッピーエンドでは、死ぬときにしかないわけだから。
中島 安心したがる人たち、というのがやっぱりあると思うんですよね。たとえば私が録音し終わって、「レコードできたんですよ」と言うと「どういうレコードですか」って言うんですよね。「聴いてみたら?」ってこっちは言うんだけれど、「いや、聴くから、その前にどういうレコードか教えてよ」と。「いやあ、どうっていっても、それは取り方次第だからご自由に」って言うんだけれど、「普通世間一般でいう種類分類があるでしょ。そこに当てはめてもらわないと安心して聴けない」みたいな言いかたをされる。
で、レコードを出しちゃって今度聴いたとなると、「あの歌はどういう意味?」って聞くのね。「意味って別にないからご自由に」って言うと、「それじゃあ私、不安だわ」という言いかたを逆にされる。そういう”安心したい””人がこう言うからいいんだろう”みたいなところに頼りたくて、こっちのを説明しろって言われるとね・・・。
勝 それがいちばん怖いところだね。いまの日本で。
中島 怖いですね、それは。
勝 評論家がそうなのね。誰がいちばん最初に書くか、ということになるわけだよ。誰かが書いたら、それをちょっと変えて言ってみたり、なまじ自分自身に体験と感覚のない人に限り、変なところをほじくり出して批判してみたりするんだけどもね。
お芝居でも歌でもそうなんだろうけども、誰でも人間そうなんだろうけども「あなたのあそこの帰りかたの後姿がいい」なんて一言でいうと、その明くる日から、その女優さんの後ろ姿がよくなっちゃう。これは不思議なんだよね。
中島 確かにコンサートなんか、よかったという部分ーまあ100%ということは今までいっぺんもなかったけどー「よかったね」と言われると、無意識のうちにもそれをコピーしよう、再現しよう、とするんですよね。だめなんですよね。そういうのって。
勝 そうするとだめなんだ。
中島 自己嫌悪に陥っちゃうんですよね。で、「よかった」と言われるときには猜疑心を持って、きっと嘘だと思って聞くようにしているんですけど、やっぱり聞きたいんですよね。
勝 うん。レコーディングやるとき、耳にこう当ててやるでしょう。
中島 ヘッドフォンですね。
勝 あれをやるととたんに自惚れるというかな、自分でかなりの線をいっているんじゃないかなあと思って、吹き込んだのを聴くと、よくないんだなぁ。これ、やっぱりあったほうがいいのかしら。
中島 雰囲気つくりみたいな役目はあるでしょうね。
勝 自分の声がすぐ返ってくるやつがね、何か自分でうまくなっちゃったような気がしちゃうんだけど、そういうことってある?
中島 ありますね。それで、自分の耳に返すときに、エコーをかけて返してくれますでしょう。
それをあとでもう一度プレイバックしたときに、ミキサーのほうでエコーを全部取ってテストするときがあるので、それを聴くと真っ暗な気持ちになりますものね。エコーをきかせないで自分の声を聴くのって、ものすごく辛いですね。
勝 オレはね、だからエコーを全部取ってもらったの。オレの弱点というか、欠点をちょっと見せてくれと。今までもオレ、知らないんだから。で、エコーをはずしてもらって吹き込んだわけ。そのほうが、何か安心するんだな。
中島 あ、そうですか。
勝 エコーをかけて歌うと、必要以上の色気というかな、ほめてもらいたいみたいな気持ちが、もっと出ちゃうわけ。
中島 そうですね。おだてりゃどんどん木に登っていく、っていう感じになりますね。
勝 そうそう。下りるときは擦りむいちゃうよね、登るのはいいけれども(笑)
ところで往々にしてね、映画でもそうだけど、お芝居の場合でも、セリフを言わないで、ただ黙って見てて、・・・こうやっているところを見て欲しいなと思うもの。あれが撮りたいわけだよ。あの表情が。もう二度とできないんだから。台本にないんだからね。”恥ずかしがりなら、ちょっとこうやるんだ”てことがト書きに書いてあると、前の日に研究しちゃって、恥ずかしそうに・・・という研究をされて出てきたやつは、オレはいやなわけだよ。
もうバレちゃうからだめだと、昨日研究しちゃったんじゃないの?もういっぺんやろう。時間をかけていいから、やりたくなるまでジーッとしてたらいい・・・。
中島 フフーン。
勝 そうすると、さっきと違うわね、今の表情は。どっちを使っていいかって困るくらいにいいんだよね、これが。
そういうものは歌にもあると思うんだよ。
中島 コンサートをやっていて、今いちばん悔しいなと思うことって、いちおう自分で書いた歌詞があり、メロディがありますよね。それをコンサートとして行ったときに、歌い方は別にしても、その詞や曲はいちおう再現する格好になりますね。それを、その日のまんまに、すぐ歌詞にしていけたらどんなにいいだろうと思うんですけれども。そんなにポンポンできないことが、悔しいですね。
勝 ディナー・パーティなんかでやったりするときに、オレの歌なんてほとんどお客は知らないから、歌詞をいくら作っちゃってもお客はわからないわけだよ。逆に、よく知られた歌なら、歌詞間違えると困るだろう。
中島 そうですね。客席がみんな「とまどう」んですね。できればその日に歌う曲は全部変えてみたいと思うんですけど、1ヶ所間違えても、”あっ、間違ったよ、違うんじゃない?”って、小突きあって、ヒソヒソいって、とまどっちゃうんですよね。
勝 そうそう、だから日本人には、とっても困るとこがあるんだね。
中島 そう。頭の中では、次の歌詞が、ここ(喉もと)へきてるんだけど、違うなと思っているときってあるんですよね。”絶対に今はこの言葉じゃない”と思うんだけど、”やっぱりこの言葉を言わないとおかしいかな”って、自分でふっと考える、っていうことがイヤでね。
勝 歌は変えられない。芝居は初日からセリフを変えられるんだけどね。やっぱり足し算よりは引き算をしてるほうがいい。掛け算なら別だけども。
ところが、映画でもそうなんだけれども、高いギャラの人が出てくると、なんでもよけいその人を映せばいいと思っちゃうんだよ。日本人は貧乏だから器用なのか、器用だから貧乏なのか知らないけれど・・・。その人が非常に希少価値のある人だったら、ずーと下を向いて喋ってたっていいんだよ。そこに音が出てきてるんだから。その人の毛穴から出てくる雰囲気は画面に映るわけだから。
ところで、自分が新曲を作ったとき、その対象はやはり自分自身?過去の自分の記録をー音の範囲を超越するようなものにチャレンジしていくわけ?
中島 そうですね。自分でいいと思うかどうかっていうことだけですね。それを結果として人にほめてもらいたいけれど、自分でいいなと思わないのは、人に聴かせたくないし。自分で書き上げたときに、最後のところの終わりのマークを書いたときに、「やったね」と思えたら最高のはずなんですけどガッカリするのね。こんなはずじゃなかったといつも思うんですよね。
なんでああなっちゃうんだろう。書いてる途中では”これは名作だ”とか思ってんですけどね。ハハハ・・・。なんであそこでガッカリするんだろうな。
勝 でも、それがあなたに与えられた財産なんじゃないの?
中島 はあ、そんなもんなんでしょうかねぇ。
勝 ところで、男に追いかけられるのって好きかい?
中島 こっちが思ってる人に思ってもらうのはありがたいんだけど、こっちが思ってない人に思われるのはメンドウなのね。お返ししなきゃいけないかしらと思ってしまったりするから。
勝 それはエンターテイメントじゃないんだよな。エンターテイメントっていうのは、やりっ放しがいいんだから。お返しがほしいためにサービスすることはないんだから。
そうすると、たとえば、私には夢中にならないでよ、私のことは追いかけないでよ、ってそれを言わないの?
中島 とっても「じゃけん」にしちゃうかな。
勝 終わったら?終わったらって・・・(笑)。
中島 もっと前ですね。あ、メンドウ、放っておいて・・・というところで、やけに「じゃけん」みたい、私。
勝 そしたら、永久にアベ・マリアになっちゃうじゃない。
中島 困りましたね。
勝 「じゃけん」にされても、されても、相手は強引に強姦でもするような・・・。
中島 ハハハハ・・・、そういうのはちょっと、いただけませんね。
勝 男が追っかけてきたら?
中島 ちょっとお帰り願いたいっていいう感じがありますね。
勝 そういう関係になっちゃったあとでも?あれは私の間違いでした、と。
中島 間違いでした、あんときはちょっと酔ってたもんで、とか・・・。いやいや、これ女がいうセリフでしょうか。(笑)
<完>