桐島洋子の実感対談 「私の歌はみんな私小説、ふられてもシツコク迫っています」
週刊現代 1978年2月9日号
━リード━
この人の歌は、深夜、一人で聴くのが似つかわしい。男と女の熱い心の高まりが、やがて行き違いを生み、別れの道をたどる・・・。けだるく、もの憂げな表情からくり出されるその言葉には、人生の修羅場を二つも三つも乗り越えてきたかのようなしたたかさと、達観ぶりが共存して、熱狂する若い男性ファンをさらにしびれさせてもいるらしい。今回は”みゆきソング”が生み出されるまでの男性探検から舞台上でのときめきまでを自作自演・・・。
▼寂しい話ですが、私の恋はいつも悲しい結末に終わる
ところは東京・高輪の高台にあるホテルの中華レストラン。今日は、ニューミュージックの旗手、中島みゆきさんが相手とあって、「私、歌謡音曲に弱いから、うまくお相手出来るかナ」と、少々思案顔の桐島さん。ところへ、黒のTシャツに花柄刺繍を散りばめたジーパン姿のみゆきさんがやって来た。
桐島 私、つくづく思うんだけど、現在(いま)は歌謡音曲の時代なのねェ。
中島 そうでしょうか。
桐島 考えてみたら、あなたのような吟遊詩人がものかきのかわりを果たしているのね。
中島 いやァ。(小さい顔を左右に振ってテレる)
桐島 だって小説家が何百枚も費やして語るのを歌でほんの数分のうちに語っちゃうでしょ。ものかきは手間暇かけて、しかも読ませなくっちゃいけないのに、そっちは聴かせりゃいいんだから強いわ。
中島 やア、でもやっぱり、曲も多く出回ってますし、耳も肥えてるので、これで大変なんですねェ。
桐島 あなたのは失恋がテーマの曲が多いようだけど、歌は私小説なわけ?
中島 うん、そうじゃアないかなと思います。
桐島 失恋の多いヒト?
中島 実りませんねェ。寂しい話ですが、ウッフフ。なんかいきなり(失恋体験の話に)煮詰まっちゃったみたいだな。
桐島 でも私小説となると興味あるのよ。あなたわりと恋を深追いしないで、サラリと諦めちゃう方ですか。
中島 いやア、実際の状況として、サラリと諦めざるを得ないというか、もう最初の段階から空振りということなのですよ。私は、ストレートのつもりでいるのに相手はストレートではないのですよ。だから当たるわけがない。
桐島 初失恋はいつ・・・。あ、初恋か。ごめんなさいね。
中島 もう、体裁のつけようがないねェ。中学でしょうかね。そもそも最初がまずかったんです。最初でコケるとあとみんなコケるものでありましてェ・・・。
桐島 以来失恋のしっぱなし・・・。でも、今年の四月頃から歌の中身が変わって来た。前は観念的、抽象的であったのが、近頃は非常に具体的になって来たので、これは何か実生活に生々しい変化があったのではないかと勘ぐる向きがあるんだけど。
中島 いや、レコードで聴かれると十ヶ月前といまでは違うように受け取られますが、私の方はそんなつもりはないんです。
桐島 最近、恋はしてますか。
中島 ええ、ズッコケながらもしつこくやりますねェ。なかなかうまくいかないですが。
桐島 どうしてうまくいかないのかな。サービスする方でしょう、男性に。
中島 カッコ悪いサービスなのです。例えばの話が、コーヒーが出たとします。一生懸命いいカッコして私が、サッと砂糖を入れるわけですね。でもそういうときに限って相手の人はブラックが飲みたかったりして。
桐島 そのとき砂糖入りを飲むのが優しい男だけどなア。
中島 それもあるし。私もかなり魅力的な女だと・・・。フフフ思うけど、しかしそれよりもっと魅力的な女がいるのだねェ。
桐島 同感。でもそこで負けじ魂起こさないの?
中島 頑張りますが、負けじ魂だけでは如何ともしがたくて。
桐島 しつこくて、諦めの悪い女が最後の勝利を占めるものよ。
中島 ハイ。ふんだくるつもりでやれとはいわれますが、どうみても向こうが勝っていると思うと・・・。
桐島 どうしてもクールになっちゃう。
* *
自分の歌は、実体験という中島さん。少しテレながら、だが恬淡と語るところは、覚めてる女という評判どおりだ。
▼お酒を飲むと男の人を脱がせたくなっちゃうのよ
桐島 あなたお酒を飲むと、脱がせ魔になるってホント?
中島 飲むと熱くなるでしょ。だから、熱いのに汗かいて、カッコつけなくてもいいじゃないか、脱ぎなさいよォってとっちゃう。
桐島 どこまで脱ぎなさい?
中島 最後の一枚まで。
桐島 パンツも?
中島 ハイ。
桐島 ついでにあなたも?
中島 あたしは、汗かかない性(たち)で・・・。それに女が脱ぐと囲りが一瞬たじろぎますもんね。
桐島 女が脱ぐ方がいいわよ。男が脱いでも目の毒にならないもの。
中島 ヤアそうでありますか。
桐島 脱がした男は北大の連中ですか。学生時代は北大の寮によく潜ったってうかがってるけど。
中島 私の学校が人数が少なくて、それなら北大へ行った方が頭数が揃うというんでね。
桐島 何のクラブ?
中島 フォーク研究会です。
桐島 そこへ潜り込んで朝までいたの?
中島 ええ。
桐島 すると、激しいこと想像しますがねェ。
中島 ええ、それでいいんです。トウモロコシとかキャベツ掻っ攫いに行きました。それをオンボロ寮に持って帰って食べて・・・。
桐島 私も高校時代、隣が東大だったから(東大教養部=駒場)よく潜り込んで、合唱研究会などに入ってロシア民謡など唄っていましたが。むしろ東大生よりデッカイ面して。
中島 ヘエ、アハハハ。
桐島 読書会の委員長やって、エレンブルグの「雪どけ」を見ましょうとかいったり、あるときは山村工作隊に加わって、浅間山麓へストライキのやり方を教えに行ったりしてね。むこうでは「テンプラ学生でないからよかんべ」って一つの蒲団に男の人と寝かされたりしましたよ。で、こっちも着のみ着のままで、コッチコチになって一緒に一枚の蒲団にくるまって。
中島 何事もなく。
桐島 ええ、何事もなく。
中島 信じられない。アハハ。
桐島 あなたの頃は、政治活動はどうだったの。
中島 内ゲバの方が多かったみたいですね。
桐島 その闘士の中に魅力的男性はいませんでしたか。すごく男を感じるじゃない。そういう男(ひと)って。
中島 どうなんでしょうね。
桐島 私なんか、学校いつもサボったけど、家庭科だけは出てね。料理作っちゃ弁当箱へ詰めて隣(東大)へ行って二人で食べたけどな。
中島 羨ましい。
桐島 恋人といるときはどんなことしてるの・・・。
中島 なにかしらア・・・。(宙を見て)お昼寝してたかなア。お昼寝しててお互いに隣で邪魔にならないっていうのはいいですネ。
桐島 それ同感。北海道なんか一番いい風景でしょう。草の上で男の手枕でなんてね。
中島 山の中へ行くとまるで人が来ませんからねェ。
桐島 それなのに恋が実らなかったのかなア。あなたは大体ムキにならない女(ひと)ね。あ、この男逃げるなって見通しちゃうんでしょ。
中島 うん。
桐島 偉いもんだワ、私なんて四十になってやっとそれがわかって来たのに。若い頃なら、私なんか逃げられるまでわかんないもんね。
中島 アハハハ。ご謙遜でしょうねえ。
桐島 でも恵まれてるわね。そうやって楽しんでいたのがいつの間にか商売になるなんて。
中島 相変わらず、あまり仕事してるって気がしませんね。これでお金もらっていいのかな。
桐島 大分入りましたでしょ。
中島 年齢からみればそうでしょうけど、来年入るかっていうとそうとは限らないから。
桐島 覚めているのね。
▼独り寝して一番体に楽なスポットを捜すのがスキ
桐島 でもお医者さんのお嬢さんが歌手だなんてね。これまでのパターンだと、一家眷属を痩せた双肩に背負って、目尻けっして歌い継ぐっていうのだけど。
中島 いや、医者にもピンからキリまでありまして、他人(ひと)はまさかとおっしゃいますが、うちの場合はキリでした。太るところは雪ダルマになるけど、ない方も雪ダルマがとけるようになるんですね。父が亡くなって、貯金は十万足らずでしたよ。
桐島 何科でした?
中島 産婦人科でしたが。
桐島 あら、一番儲かる科なのにねェ。
中島 頑固で融通きかなかったんですねェ。私と同じで愛想も悪くて。
桐島 ガツガツしないで、恋もすぐに諦めて、じゃ実らないのはずだワ。
中島 こりゃあ、体裁のつけようないナ。
桐島 小さいときは何になりたかったの。
中島 スチュワーデスですね。ところが容姿端麗の項がありまして、逃げ出しました。次はアナウンサーになりたくて放研に入りましたが、よくいうと個性的なようだから声優におなりになったらといわれて、しらけちゃって。次に学校の先生になろうかと教育実習やったら不可となりまして、これもダメ。」
桐島 なんで不可を?
中島 授業をおっ放り出して子供たちとギタギタ遊んでいたのが悪かったのですねえ。それで、やんわりと「何かほかにお好きなことがおありなようで・・・」といわれて。
桐島 で歌手に?
中島 はい。
桐島 あなたいま一番興味あるのは何ですか。
中島 蒲団に入って、横になりますねェ。枕に頭をつけ、掛け布団をかけますねェ。なんとなく居心地悪く、ごぞごそやっているうちに居心地のいいスイート・スポットを探します。
桐島 でも独りじゃつまんないじゃない、相手がいてさ、それで、どこが一番しっくり来るかってスイート・スポットの方がいいと思うけどなァ。
中島 そんなもんでしょうか。
桐島 そうよ。アハハ。苦手なものに”ポルノ映画の看板”って何かに書いてあったわね、あれはどういうの。
中島 つい、そこでニッコリよだれを垂らすのが・・・。嫌いじゃない、好きだから苦手なんです。
桐島 つい劣情をそそられて見てしまうとか。
中島 はい。つい見とれてしまい・・・。
* *
際どいところで、サッと体をかわして宙を見つめ、頬に手を当て、首を傾げて間を取るなどなかなか話上手だ。
▼今でも舞台ではひっくり返るほどアガっちゃうんです
桐島 あなたの歌は、何か世の中に対するメッセージですか?
中島 確たるものはないです。まだ極まってるわけじゃないから。歌って、聴き手があって伝わって、それから歌い手に返ってくるものだと思うんです。だから私はまだその聴き手の引っ張りを待っているっていう段階ですね。
桐島 舞台に立って、見つめる何百何千の眼が私を片想いしてくれると思いません?
中島 いや、みなさん本命がいたりして、寂しい話・・・。
桐島 でも、意識しませんか。
中島 私、コンサートがものすごく嫌なんですね。なにも人前で恥晒さなくてもと思って。だから開演五分前までは、いやでいやで仕様がないんです。でも一ベル(五分前)が鳴ると、これで出ないで帰ったら、なおさら行き場がないでしょ。「なんだあのヤロー、すっぽかしやがって」となる。で、仕方ないから出るんです。でも「アガリの中島」といわれるくらいですから、本当は何をやってるんだかわからないんです。
桐島 やっぱりアガリますか?
中島 もう、ひっくり返ってアガリます。だから会場が盛り上がってるんだか、盛り下がってるんだか、コンサート終わったあとまでわかんないんです。
桐島 テレビは出ないのね。
中島 別に好きじゃないだけです。テレビでスターにならなくたっていいと思うから・・・。そりゃ出ればオイシイ夢もあるでしょうけど不器用で、二タ筋道追ったらコケるから。
桐島 マイペースなのねェ。
中島 エヘヘ。そうですね、といいたいんです。でも私の歌に賛否両論あって、きらいといわれるとやっぱり寂しいですね。万人に好かれるというのは難しいでしょうけど、百人が百人全部に好かれたいって思う部分があって・・・。
桐島 あらいいじゃない。どこまでも覚めてると思ったけど、本音はそうでもないって。
中島 いけないこといったかなア。
桐島 いいわよ、可愛いワ。
■構成/渡辺利弥