冗談じゃねぇゾ、と思うのだ。
6月2日に那覇市民会館でコンサート・ツアー”五番目の季節”が終わった時に、これで「あたいの夏休み」の後はLPを待つだけだ、なんて考えてたら、とんでもなかった。中島みゆきは、信じられないほどのペースで、次々とメッセージを発信してきたのだ。もちろん、彼女が本気だってことはわかってるつもりだったけれど、それでもまだどこかで甘く見てたってことを思い知らされた気分。
まったく、なんてこった、なのだ。
ニュース番組にかかわりたかったの
━しっかし、本当によく働きますね。
みゆき フフフ。
━「あたいの夏休み」と同時に、テレビ朝日『ニュース・ステーション』の”日本の駅”のテーマ曲(「おだやかな時代」)をやったり。
みゆき うん。天の岩戸に入んないって言ったんなら、言っただけのことしなきゃね。
━あの曲は、あの1分のバージョンだけ?
みゆき 結局、幻のテープになりましたね。シングルにもならずにねェ、ウァハハ。いつシングルになるんですかって問い合わせが来るけど、サァー、っていう、ハハハ。
━あれは、なぜやったんですか?
みゆき あれはね、曲の内容もしきることがなら、あの番組、ニュース番組でしょ。ニュース番組っていうのにちょっと興味があって、そことかかわりたいなと思ったこともあるの。あたしが歌を歌っている歌番組に出ることがテレビとのかかわり方なのかなって考えると、他にもいろいろあると思ったのね。
歌番組も、ノン・フィクション風っていうか、ナマですよっていうのを追いかける方法も試行錯誤しているようだし。いっぽう、アイドルをアイドルらしく見せるみたいな、フィクションはフィクションたらんとする方法と、その間でグチャグチャになってるところだと思うの。
━そうですね。
みゆき それよりもっとテレビの中で簡潔に受け取りやすい形として考えた時に、ニュースだと思ったんですよ。今、ニュースをフィクションとは思ってないでしょ。フィクション入ってるんだけどもね。
━「ショウ・タイム」という歌もある。
みゆき エヘヘ。ドキュメンタリーでさえも手が加わっていることは、みんな見抜いていると思うの。でも、ニュースというと、なぜかしらん信用される怖さってあるよね。そこにちょっとかかわりたいと思ったの。
あの一曲書いたくらいでどうこうできるってことはないけれども、あそこの枠の中に登場したかったっていうのはあるのね。
━かなり重要なテーマとして、テレビに出て行く方法って考えてる?
みゆき うん、避けてるわけじゃない。ただ、テレビって何なのかなと思うとね、おもしろがっているオモチャじゃすまされない時代に、もう来てると思うのね。テレビにだって使命があると思うの。可能性とも言えると思うけど。
━「おだやかな時代」という曲は、歌詞がなければBGMとして通用する曲ですね。
みゆき そう。ある意味であたしは、今のテレビの中で聞きやすいとされるものを、あそこに1分間出してみたってところがあるんですよね。
━だけど、詞はテレビ画面の外の世界をチラッと感じさせるという。
みゆき うん。テレビをテレビという機械として見たら、これからおもしろくない。そこからどこへ広がっていくかっていうことだから。広がらないからテレビはつまんないだよね。箱の中の出来事で終わっちゃうから。
━テレビって何かの窓のハズなんだけどね。もしくは、駅のハズだよね。
みゆき ニュース番組っていうのは、今のところ、けっこう開かれた窓になる可能性があるね。見る態勢にそれがあるの。あぶない窓なんだけどね、それは。
━みゆきさんはテレビっ子だった?
みゆき けっこう、付けっ放しで、ずーっと見てたよ。
━やっぱりね。じゃないと気がつかないよね、そういうことは(笑)
みゆき アハハ、すいませーん。
聞くほうにも心の準備をしてもらわないと
「おだやかな時代」と「あたいの夏休み」の間でしばらく行ったり来たりしているうちに、もう一枚のシングルが射程に飛び込んできた。「見返り美人」。「あたいの夏休み」が出てから、まだ3ヶ月しかたっていない。
みゆき ハハハ、出してしまいました、。なにせ後にLP控えているもんですから。一緒に出しちゃうと、やっぱり散らばりますんでね、フフ、早目に出すものは出しとこうと。
━早目に出すべきものなんですか、あれ?
みゆき やっぱり早目に出しといた方がいいんじゃないですか。ちょっとずつ心の準備をしてもらわないとね、聞く方にも(笑)
このリリースの早さだけでもただごとじゃないのに、そんなこと言われたら平然となんてしてられない。思わず次のLPのことを考えてしまう。そこに、追い打ちが来た。
みゆき あの曲、テンポ遅いと思いませんでした?
エッ、そんなこと考えもしなかった。たしかに最近の”売れ線”とされるテンポより遅いかもしれない。でも間延びして聞こえるってことは少しもない。それどころか「見返り美人」の並々ならぬインパクトは、このテンポでジャスト・フィットだ。(僕は、家に帰って聞き直し、再確認した。)
「見返り美人」は、やっぱり次のLPの導入となる作品だと思う。少なくともLPに通ずる姿勢が、この曲にもあるハズだ。だからこそ、あえて彼女はこのテンポのこの曲を出したハズなんだ。
━この曲、アルバム・バージョンは?
みゆき はい。そんなに大幅には変わんないとは思いますけれども、いちおうやってます。へへへ、おもしろいもんですよ。なーんか言って。
━シングル・バージョンとアルバム・バージョン、どうして作るんですか?
みゆき やっぱり時間がたつとね、自分でああすれば良かった、こうすれば良かったって、その時の気持ちで変わるしねぇ。うん、だから、やっぱりその時でやりたくなりますね。
━昔の曲を新バージョンでやる気はない?
みゆき それ、今まではね、いさぎよくないような気がして避けてきたんだけども、ここに来ていくつかある、今、納得できないっていうの。コンサートではやってきてるけど。
恥かくことになるけれどもね、そういうことやると。なんだ、余計なことしない方が良かったのに、みたいなこととか。それはいろいろあると思うけれども、直したいなっていうのはいくつか揃ってきてる。
━みゆきさんの作品で、ずっと生きてると思う。だから、その時々で出し方が変わっていく作品があってもいいと思うんですよ。
みゆき うん、今、何考えてるのかな、みたいなのとかね。賛否両論、たぶんあると思いながら、否が出ることを怖れて、やってないっていうとこあったんですけど、割と。
でも、いいのよね。否は否で。
━でも、もうずいぶん踏み込んでるじゃないですか。」
みゆき おかげさまで。ハハハハ。
中島みゆきからのメッセージはこれだけじゃない。本号が出る頃には、初の書き下ろし小節(ルビ:ストーリィ)『女歌』(新潮社)が出ているし、フォト・パネル、コンサート・パンフ、オリジナル・グッズなどを展示、全国を巡るフェア『中島みゆき展<おだやかな時代>』も、東京でのスケジュールを終えているハズだ。
━これはコンサート・ツアーに替わるものなんですか?
みゆき ではないんだけどね。コンサートに来なければ手に入らなかったものを、来られなかった人にも持って行きたいっていう。それだけですよね。
━サービス?
みゆき いや、単なるコミュニケーション。
━こういうことは、この先もやってゆく?
みゆき うん、やっていきたいと思う。必ずフェアという形ではないかもしれないけど。やたらとこっちで回っててお金払ってもらうだけじゃなくてね。こっちからも、なるべくみんなに負担をかけないでコミュニケーションできる方法っていう風に考えてね。
恋から始まる何かにもっていきたい
『女歌』は、”五番目の季節”ツアーの中で書き上げられたもの。小説という文字にルビがふってあるように、これは中島みゆきが出会った6人の女の生き方をストーリィに構成した作品だ。6人の女たちは、それぞれに健気で、たくましく、繊細で、愛らしい。そしてそこには、女が生きていくことに焦点を定めて、そこから普遍的なものを見出そうとする中島みゆきの意志が感じられる。そして、その意志は「見返り美人」に感じられるものと共通していると思う。
僕は、彼女が前に言った言葉を思い出す。「あたしは”オールナイト・ニッポン”とか、あちこちゲスト出ることとか全部含めた上で出てくる次のLP、コンサートっていう風に思ってるから。(中略)こっちの気持ちとしては、全部含めた上での必然性としてのどれか、なんですよね」
━でも、これだけいろんな形で、集中して出していくっていうのは、何なんだろう?
みゆき なんなんでしょうね。やっとやる気が湧いてきた。ハハハ、困ったもんだ。
やっぱり秋に出したいLPがあるわけでしょ。そこへ、突如思い立ったんじゃなくて、流れを、こっちへ行こうとしてるんだってことを見せといて行かなきゃならないっていうことは、ひとつあるんですよね。やっぱり、体動かしてやんなきゃなんないことは、体を動かしてることを見せてから出すっていう。
━すごく攻勢に出てるって感じるけど、それは危機意識とはつながってますか?
みゆき いや、それはないですね。
━それはない?
みゆき うん。それは自分で意識してないだけなのかなんだかわからないけど、危機意識っていうんだったら、もっと前にあったね。
━いつ頃ですか?
みゆき どの方もそうなのかもしれないけど、意外とヒットが出ちゃった時のすぐ後とか。
━あ、最大のチャンスが最大のピンチになるという。
みゆき そうそう。ハハハ、それですね。そういう意味では、あたくし今、とても解放された状態にいますから、アハハハ。なんでもやっちゃうっていう、ね。
中島みゆきは今、とてつもないエネルギーで走り続けている。だから、彼女の多彩なメッセージを受け止めるには、こっちもウカウカしちゃいられない。おそらく、11月中には、今さまざまなキーワードと共に打ち出されているメッセージのひとつの結節としてのLPが発売されるはずだ。そして、今年も12月18日から4日間、両国国技館で”歌暦Page86恋唄”がおこなわれる。まだまだ攻勢は続くのだ。
━今年は”恋唄”というタイトルが。
みゆき はい、つきましたね。あえて避けていたタイトルですが、ハハ、これまた。
━あえて出した?
みゆき もうド正面きって。これド正面きって出したら、この後、展開頑張るしかないです。これをとっておけば楽なんだけど、もうとっとかない。恋を最後に持っていくという手もあるけど、恋から始まるなにかに持っていきたいですよね。.
━うん、そうかァ。
みゆき いわゆるハーレクイン・ロマンスって恋で終わるじゃない。いい恋で終わるのよね。だけど、恋から始まんなきゃ『クレイマー・クレイマー』は始まんないのよね。
━ハッピー・エンドの先だよね、問題は。
みゆき ねっ。
━ウーン、リアリズムだなァ、これは。
みゆき ワハハ。そうね、リアリズム好きだから。
僕の中で、見返り美人ー女歌ー恋唄、という言葉がつながっていく気がする。ドラマは始まったばかりだ。その、ドラマを始めようとするリアルな意志が、もうすぐ新しいLPに結実する。
覚悟は?
(完)